寺本貴啓のブログ

塩盛秀雄先生 (埼玉大学附属小学校 教諭)

 「スイッチ作れるの?」大喜びの子どもたち。第3学年のものづくりの場面である。大人から見ればスイッチを作ることは何てことないかもしれない。しかし、そのようなことを「面白い」という気持ちになるよう、子どもの心をつかむ先生がいる。

 埼玉大学附属小学校の塩盛秀雄先生だ。

 記念すべき第1回目の「 小学校理科スゴ腕先生わくわく訪問記」は、これまで何度か授業を拝見してきて、毎回素晴らしい授業を見せてくれる塩盛先生に取材のお願いをしてみた。このコーナーは、全国の優れた先生の授業を参観し、先生にインタビューしようという「スゴ腕先生紹介コーナー」です。

おもしろスイッチを作ろう!

 今回の授業は、3年生の年度末ということもあり、「電気の通り道」の単元の”ものづくり”の導入場面である。一般的なものづくりの授業は、これまでの学習を生かしてどちらかと言えば教科書に載っているおもちゃをそのまま作ったり、キットで工作したりすることで終始することが多い。その中で、 塩盛先生はものづくりの中でも「スイッチづくり」に特化して授業を進めていた。ただのスイッチではない、子どもたちが考えるこれまでの学習を活かしたスイッチである。「おもしろスイッチをつくろう」これが先生が黒板に書き出した課題である。

 「ピタゴラスイッチみたい!」 子どもたちも先生の意図を汲み、仕掛けのあるスイッチ作りを理解したようだ。最初の段階は、どんどんイメージが出てくる子どももいれば、全くイメージがわかない子どももいる。そのため塩盛先生は、まずはスイッチに使えるものを想起させ学級で共有し様々なスイッチのイメージができるように促す。そして「まずはワークシートに書いてごらん」と、塩盛先生は子どもたちのバラバラの思考を視覚化して子ども自身で整理できるように促していく。

 学級全体でこれまでの学習を振り返り、電気を通すものは金属であるということを確認した上で、子どもたちにスイッチとしてどのようなものが使えるのか学級で共有する。子どもはアルミホイルや十円玉、釘など様々な身近にあるものを使ってスイッチが作れるのではないかというように想像しながら材料を考えていく。

 子どもたちの発想は柔軟で、我々が想像する”スイッチとして使いやすい材料”を言うだけではなく、身近にある金属の物を使っておもしろスイッチにならないかと考えている。もうすでにピタゴラスイッチのような気分になってイメージを膨らませているのである。

 しかし塩盛先生は、電気を通す材料を確認するだけで終わらない。ここからが”ものづくり”のクライマックス。塩盛先生は、子どもたちの発想を広げるためにさらなる手立てを入れる。

 「これまでに学習した中で物を動かす方法ってどんなものがあったかな?」

 その問いに対して子どもたちは「風」「ゴム」「磁石」などこれまで学んできたものを動かす方法を発表する。単に電気を通す材質を確認するだけではなく、電気を通す材質をどのように動かして”おもしろスイッチ”にしていくかということに繋ごうとしているのである。

 ここから子どもたちの発想が止まらない。まさにピタゴラスイッチを考えるように、「車の先に電気を通すものをくっつけて、 風の力で車を動かしスイッチにしてみよう」とか「磁石のN極とS 極の性質を使ってスイッチを作ってみよう」など、様々な”おもしろスイッチ”が出てくる。

 45分の限られた時間の中で、子どもたちの発想が飛躍的に広がっていく姿を見た1時間であった。

塩盛秀雄先生に聞いてみた!

 塩盛先生が理科の先生をしている理由を聞いてみると、塩盛先生は元々未知のことに対して不思議と感じることが多く、子どもの頃から図鑑を見ることが好き。また、夏休みになったらセミを取りに行き、籠いっぱいにして帰ってくる活発な子供だったようである。

 先生になって、初任校で初めて理科の授業をした時、子どもたち自身が問題をもつようにどのように授業を工夫するのか?どうやって授業の展開をしていくのか?どうやって結論に導けばいいのか?という授業づくりをやっていく中で教材研究をしている時間が楽しかったことが理科の先生なる大きなきっかけとなった。

寺本:小学校理科の魅力は何ですか?

塩盛: 目の前で証明できる、自分で証明できる、って言う事とかですかね。ちゃんと実証できるというところだと思います。

私自身としては、こっちの声かけ一つで子どもの反応がこうなるだろうって想定して、授業のもっていきたい方向を考えるのが好きなんですけど、うまくいかないときもあるんです。例えば「~を」のところを、「~に」にしてしまったり、1文字間違えるだけで、子どもたちはぽかんとしたりする時があったりして、そういうときは「あちゃー」と思ったりもします。でも、言葉を大切にして、子どもたちの考え方をうまく拾っていくことは、子どもの発想を重視する理科の授業の魅力の一つといえるのではないでしょうか。

寺本:理科の授業をする上で気をつけていることは何ですか?

塩盛: 子どもの考えで授業が進むように何とかしたいなって思います。問題解決の流れと言ったらそれまでですけど、子どもが結果や結論を探したくて、または発見したくて、理解したくて授業を1時間やってるっていう状態をなんとか作りたいなと思っています。

寺本:好きな単元は何ですか?

塩盛:好きな単元は、6年の「月と太陽」ですね。あの単元は、何とか自分の楽しさを子どもにわかってほしいと思っているんですけど、なかなかその楽しさはわかってもらえないですね(笑)。

 6年までに、太陽の動き方、月も同じ動きをしているという学習をやってるんですけど、結局定着してないっていう。そこをなんとかするところが腕の見せ所というか、面白いと思っています。月の形は太陽と月と地球の空間的な位置関係で変わるんですけど、実際に空を眺めると、傾いているというかゆがんだりして見えるので、子どもたちは、そのような位置関係をどこまで捉えているのかな?と考えながら授業をしています。

 中学校の宇宙の視点と言うか、その視点のもちかたを、小学校の中でどこまで気づかせるか、イメージさせられるか、空間的なとこですよね。そこをどうにかしたいってのが最近の研究授業でのもっぱらの関心事です。距離感やスケール感などです。

 この単元は、たった5、6時間くらいなのですが、1分、1時間、1日の単位から1週間、2週間、3週間、1月、2月、1年、2年っていうような時間的な幅もあるし、二次元、三次元という空間的な広がりもあり、複雑なんです。子どもにとっては、かなり考える幅が広いので、授業でどこを限定してあげればよいのか、まずどこの部分から理解して全体を掴ませるかというところは、本当に難しくもあり、楽しい時間なのです。

 分からないことに対して、ああでもない、こうでもないと考える子を育てたいですね。

(取材:2020.02.25  文責:寺本貴啓)

 【プロフィール】
 塩盛秀雄(しおもり・ひでお)  埼玉大学附属小学校 教諭
  
 福岡県生まれ、埼玉育ち。
 子供の頃は水泳や剣道を習っていて、運動好き。最近は見ることが多い。
 普段から、自分で見て、聞いて、触って確かめることが好きで、新しい場所に行って、ふらふら散歩したり、写真を撮ったりします。
 温泉など、お風呂に使ってのんびりと創造を広げる(妄想を広げる?)時間が至福の時です。 

若い先生へのメッセージ(YouTube)
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